ものすごく乗り遅れた感がすごいんだけども

「神ツール」――初音ミク踊らせるソフト「MikuMikuDance」大人気 - ITmedia NEWS
 製作者の方とは(ほとんど使っていない)mixiでマイミクに登録させてもらっている程度にはつながりがあるんで、ツール自体はそこですぐにダウンロードして「すげえ」と口を半開きにしていじりながら、その後10分で自分の根性のなさに絶望して不貞寝してしまったのだが。
 後日、ご本人の「銭は要らない(要約)」発言を聞いてしまった途端、あるものを思い出してモニョモニョした気分になってしまった。
 そのあるものとは、井上純弌がPBM関係で描いたコミックで「底がどん底」とか「底が最低」とか言うタイトルのものだったと思う。思うと言うのは、実物がハードディスクの中からみつからなかったからだ。つまりうろ覚えでこれを書いているので、非常に歯切れが悪くて申し訳ない。てか、なんで俺はこれを入手していたのかよくわからない。違法なファイルだったらまずいから、みつからない方がいいのかも知れないが。
 さて、そのコミックは、PBM運営で見られるある問題を指摘するものだった。すなわち「能力があり、熱意があり、しかもタダもしくはタダ同然で働く人間がいた場合、その人間が原因でPBMは衰退する」と言う内容だった。
「能力があって熱意があって低賃金で働く人間がいて何が悪い?」プレイヤーと経営者は、反射的にそのように考えるかも知れない。しかしそうではないとコミックの中では説明される。
「能力があって熱意があって低賃金で働く人間」は、安い賃金で高いサービスを実現する。しかしそれが続くと、ユーザーも経営者もそれが当たり前だと思うようになる。そうすると「能力は普通、熱意もそこそこ、賃金は食っていくためにある程度要求する人間」は慣らされたユーザーからは「なんだこの無能」と叩かれる。決して無能ではないのに、だ。そしてこのミスターアベレッジはモチベーションを失い、PBM業界を去ることになる。
 会社に残されたミスターパーフェクトはそれまで以上に働くが、彼は後輩を育てることができない。何故なら、経営者もまた新しく雇い入れたミスターノーヴィスにミスターパーフェクトと同じことを要求するだろうからだ。そんなことは万人にできる訳もないのに、だ。
 そして、ミスターパーフェクトにもやがて燃え尽きる時が来る。それはそうだ。無理な低賃金でスペック以上をたたき出していたのだから、いつかは破綻するのがわかっていたはずなのだ。
 こうして、会社には、首を捻る経営者だけが残されるが、やがて債権者から逃げるために経営者もいなくなる。会社がからっぽなのに気付いたプレイヤーたちも、やがて諦めて散らばっていくのだ。
 無論、この内容が正しいかどうかは検証してはいない。検証できるのかすらもわからない。ただ、MikuMikuDanceの場合、3Dツールを作ることで飯を食っている全ての人間に対して脅威になったことは確かだ。極端な話、アレを見て「もう俺、故郷に帰るわ」と言いだす人もいたかも知れない。もちろん「畜生、もっといいのを作ってやる」と奮起した人もいるかも知れない。俺としては、後者の方の比率が高井ことを祈るだけだ。
……うむ? ここまで考えると、ご本人が「コミックマスターJ」みたいに思えてきたな。Jに代原された漫画家は、二つの道のどちらかをたどると言う。挫折か、さらなる奮起か。Jが本人よりも本人らしい原稿を挙げてしまったため、続きが描けなくなった漫画家の話もあった。そうでない漫画家は、Jを越えんとしてさらなる研鑽を積むのだ。まあ、Jは報酬を受け取っている点で決定的に違うけれど。
「フリーで動く有能な人間は社会にとって劇薬である」
 そういう一般論で締めくくっておこうか。

P.S.創作者・プログラマとして、ご本人の業績と思想に対して敬意を払うことに一点の疑問もありません。が、一歩引いて社会全体を見回した時に、自覚のない劇薬が独り歩きしているような不安感を少しだけ覚える、と言っておきます。