殺されてでも遺したい

気に入らない遺され方を拒否する著作権者がいるとは失念していた。 - 永字八法のお返事。
「同人誌を、ターゲットの人以外には見られたくない」と言う心理自体は、私自身同人の端くれですので、自分自身感じたこともあり、理解もしています。(同時に、コミケみたいな誰が来るかわからないカオスな環境で不特定多数を相手に無差別に頒布しておきながら、身内にしか見られたくないってーのも、ずいぶんとナイーブだと思わないでもないですが、それはさておき。)
 図書館側としては、そういう心理を飲み込んだ上で、それでもなお記録に遺すのが使命なんです。

古代中国のある国で、国王が大臣の妻と姦通すると言う事件がありました。それを知り怒った大臣は、仕えるべき国王を殺してしまいました。史書家たちは、この日のことを「大臣が君主を弑逆*1した」と記録しました。大臣は史書家に対し、この記述を消すように強要しましたが、史書家たちは従いません。大臣は実際に何人かの史書家を殺して削除するように迫りましたが、それでも史書家は記述を改めませんでした。
そして史書家はこう言います。
「この記述を消してしまえばそれまでですが、もしかしたら、後世になって大臣を哀れに思う人が出てくるかも知れません」

 現在の図書館員にそれだけの気概を持った人がいるかどうかはさておき、理念としては今でも変わってはいません。とにかく、記録に遺すことです。時代を切り取って後世に伝えることが、昔から変わらぬ図書館の使命のひとつです(本当です。図書館を無料の貸本屋としか思ってない人もいますけど、そんな人が生まれる遥か過去から図書館はそういう使命を背負っています。)
 むしろ、そういう人に言えないチラシの裏にこそ、時代の風俗と言うのは現れているもので、資料としての価値はじゅるりと舌なめずりしたくなるのです。古代エジプトの「最近の若い者は……」で始まる落書きと同じで、貴重なのです。エロ浮世絵は貴重なのです。当時のエロ流行がわかるのです。
 今回の件「運営側の手順の踏み方が下手」って点は同意します。運営側の対応や図書館との規約次第では、ここまで荒れることもなかったんではないでしょうか。実際、色々条件をつけたり著作者側に選択権があったりしたら、すんなりいったんでは?

追記

「だから諦めろ」と言う訳ではなく、図書館のやっていることは利害の対立を生む可能性もあるのだから、図書館側としてももっとうまくやるべきだ、と言うのが私の持論です。念のため。

参考

やる夫ブログ やるおが同人小説家になるようです
277〜277のヲタ雄みたいな心理は、実際にありますね。

*1:目下が目上を殺すこと