「妹ゲーム」大全―僕たちの大好きな妹キャラが大集合!! 完全保存版 (INFOREST MOOK Animeted Angels MANIA)

色んなエロゲーの色んな妹を紹介してるムック、なだけではなくて、「何故妹なのか?」に踏み込んだコラムは含蓄が深い。
時代ごとのオタクの嗜好の(と言うよりも自己洞察の)変化の末に現在の妹ブームがあると述べている。
まず、エロゲーやギャルゲーをやる男性と言うのは、恋愛弱者であり、現実でモテないことの代償行為としてゲームに手を出すことは繕っても繕いようのない事実。ならばゲームの方では単純な理想である「理由もなくモテる」を提示すればいいようなものを、そこに「いや、それはリアルじゃないから」と「モテる理由」を持ち込もうとする。これが全ての悲劇の始まりだ。
最初期のゲームでは、「モテる理由」を主人公の男がイケメンだからと定義する。なるほど、それはモテる。しかしキモメンであるオタクにとってイケメン男はやがて感情移入できない存在であることにいずれ気づく。
次の時代では、「モテる理由」をヒロインの側に求めた。ヒロインが、宇宙人とかロボットとか天使とかだったら、基準が違うからキモメンでもモテるんじゃないのかと。だがそれも欺瞞。いずれは「いや、そんな女、リアルにいないじゃん」と気づいてしまう。
そして次の時代。現在。「モテる理由」をすでにある関係に求めた。主人公とヒロインが、他人ではない家族であったならば、その延長線上として恋愛は可能なのではないか。現在のオタクはこの考えに到り、本当に可能なのかどうかひたすらに試行錯誤しているのだ。
この「恋愛関係に飛躍する可能性のある家族関係」の中で代表格に選ばれたのが「妹」であったのだろう。
要するに、「本当に(自分にも)有り得そうな設定」を探して行き着いた先が「妹」なのだ。実のところこれが「姉」でも「母」でも本質的な部分は変わらない。様々な制約から頭に「義」がつかなければならないことになってはいても、本当に求めているのは無条件で許しを与える家族関係に起因する恋愛なのだろう。
慧眼なのは、このコラムはオタク界全体を俯瞰したものでありながら、オタク一人一人の内的世界の変遷として捉えることもできる。あたかも、全ての人間が口舌期から肛門期を経て成長していくように、一人のオタクがどうすれば「リアルな擬似モテ体験」ができるのかを模索する過程としても当てはまる。(ちなみに私は第二段階と第三段階の両方あるいは過渡期に位置しているようだ。大学時の同人誌の段階ですでに「家族でアンドロイド」と言うネタが最も萌えることに自分で気づいていた)
オタクとの同時代性、視点の近さから言って、このムックの筆者たちほどわかりやすく深みのあるオタク評論家はいないだろう。今後の更なる活躍に期待したい。