疑似経済活動の思い出

ザ・クリスタルボール

ザ・クリスタルボール

読了記念に。
7〜8年ほど前に、CGIゲームの「SOLD OUT」をやっていた時期があった。
簡単に説明すると、疑似同期型マルチプレイヤーの小売業ゲームである。登録したプレイヤーは、時間と金をリソースに商品を調達し、価格設定をした上で店舗に並べる。並べた商品は他のプレイヤーやプログラムが動かす街の住人によって購入される。売上や知名度で毎日ランキングが変動する。特にエンディングがある訳でもない、経営シミュレータである。
このゲームで最も重要なリソースは「時間」である。「時間」は実時間の経過とともに増加し、それ以外の方法で得ることはほぼない。(フリーCGIとして配布されている/されていた以上、改造すれば何でもありだが)市場から商品を購入するのに金とともに「時間」を消費し、店舗に並べた商品の売上を実際に使えるようにする(銀行口座からおろす)のにも「時間」を消費し、他プレイヤーの店舗や、直接の売買にも「時間」を消費する。行動の制限をする上では非常によく考えられたシステムだと思う。実際これがなければネトゲと同様に「廃人」が最強になってしまうだろうから。
ただ、「時間」が大きなリソースであることから、「複数のアカウント持てばいんじゃね?」と最初に思いつく者も多い。単純計算で2倍のリソースを使えるからだ。なお、ほとんどの場所で複数アカウントは禁止されている。実際クッキーの関係で複数アカウントは面倒だ。
私はルールを守って1アカウントで参加した。私の取った戦略(と言うほどでもないが)は、ごく単純にポーションを売りまくることであった。
ポーションは安い部類でかつ売れ筋の商品で、作成にはより多くの薬草を必要とする。薬草は市場で入手するか、他のプレイヤーから買うか、あるいは薬草の地図を入手してそこを「時間」をかけて探索するかである。その後、薬草から調合することでポーションが完成する。
できあがったポーションはさっさと店先に並べる。時間の経過とともにそれが売れて、口座に売上が入り、それを(「時間」をかけて)おろして次の薬草を入手するのに使う。こうして資産をじわじわと増やしていった。
ある程度店の知名度が上がり、商品の売れ行きもよくなってくると、一つの問題がより顕著になってきた。欠品である。ゲームタイトルにもなっている「SOLD OUT」は売り切れの意であることは言うまでもないが、経済学上売り切れなどと言うものは絶対に避けなければならない事態である。ゲームにおいても、タイトルがこれでありながら欠品すると知名度が下がると言う仕様であった。妙なところでリアルなゲームである。
知名度が売上をある程度保証すると、今度は原材料の確保が重要な課題になってきた訳だ。
結局、唯一の解決策は、コンスタントに薬草を(独占的に)提供する他業者を得ることであるが、複数アカウントでもするか他プレイヤーを説き伏せるかでもしない限りできそうもない。そんな縁の下の力持ち的な立ち位置に甘んじるプレイヤーなど探すつもりもなかったので、遵法精神に満ちた私には何もできなかった。ジレンマがジレンマのまま残ってしまっていた。
その頃、私の使っている「街」が他の「街」と貿易を開始した。貿易はこのゲームのシステムの一部で、ある「街」の店舗が商品を輸出すると、その商品が別の提携「街」の輸入リストに乗るのである。輸入リストの商品はその「街」のプレイヤーが買い付けることができる。複数のプレイヤーが買い付けをした場合は、ランダムに決まる。
「街」は鯖が違うので、複数アカウントの制限には引っかからない。私は合法的に複数アカウントを手に入れ、その別の「街」で薬草を調達し輸出するだけの、卸専門の店を始めた。最初のうちはうまくいっていたが、段々他のプレイヤーが輸出した「薬草」の買い付けに参加するようになり、第一店舗に渡ることが少なくなってきた。まあ、嬉しい副作用としては、同じように薬草やポーションそのものを輸出する業者もちらほらでてきたので、その分は多少の改善になった。
この状態をかなり長く続けた後、私はそのゲームをやめることにした。やめるプレイヤーは溜め込んだ資産を他プレイヤーにばら撒く慣習があったため、私もそれに習い、正直に「複数の店舗をやめます」と掲示板に記入した。すると「あの○○とあの××が同じ人だったんですか!?」と驚かれた。ランキングなど見ていなかったのだが、どうやら私はその二つの「街」では上位の常連だったようだ。タイプの違う二つの店でどちらも売上上位をキープしたちょっとうまい人間、最終的にそういう評価になったようだ。
結局、コンスタントに原材料を取得するにはどうすればいいのか、と言う問題に明確な回答を出さないまま撤退してしまった訳だが、冒頭のような本を読んだ後なら、素直に掲示板でパートナー募集ってやっとけばよかったんじゃないかと思えるのでした。