地獄の絵本

こどもの教育をすると言うのであれば、最近の親が怠っているんじゃないかなあと俺なんかは思っていることがやっていいこと悪いことの躾でありまして。
そんな訳で、こどもに読ませるには少々刺激が強いかと思われるがこういう絵本もありますよと。

じごくのそうべえ

じごくのそうべえ (童心社の絵本)

じごくのそうべえ (童心社の絵本)

上方落語地獄八景亡者戯じごくはっけいもうじゃのたわむれ」の絵本化。地獄に落ちたそうべえとその他が、八大地獄を弥次喜多並の珍道中でかわしてこの世に戻ってくると言う話。
……帰ってこれるんなら教育効果ないじゃん!

じごくへいった三人

じごくへいった三人 (行事むかしむかし (8月(お盆のはなし)))

じごくへいった三人 (行事むかしむかし (8月(お盆のはなし)))

綱渡りに失敗して観客を巻き込んで死んだ軽業師が、巻き込んだ観客とともに地獄行きになり、しかしそれぞれのスキルを駆使して地獄をかわし、やっぱりこの世に戻ってくると言う話。
だから、帰ってこれるんなら(以下略

地獄のはなし

「地獄」のはなし

「地獄」のはなし

地獄がどんなものかを描いた絵本。この辺からスタートするべきか?

地獄

絵本 地獄(縮刷版)

絵本 地獄(縮刷版)

元々は中世日本の絵巻だったものを製版して絵本にした本。中世人のもつ一般的な地獄のイメージそのものであり、免疫がないと夜泣きすること請け合い。素人にはおすすめできない、まさに諸刃の剣。

蜘蛛の糸芥川龍之介

蜘蛛の糸 (日本の童話名作選)

蜘蛛の糸 (日本の童話名作選)

くもの糸

くもの糸

その他あり。
芥川龍之介カンダタを扱った仏教説話に挑戦した小説が「蜘蛛の糸」であり、各社からその絵本化が出版されている。
実はこれ以前に紹介した絵本は、地獄を題材としつつも同時に絵本としての基本構造を備えていた。
物語は「誰かが穴に落ちてそこから這い上がる」ことを形を変えて語っているだけだと喝破したのは村上ナントカであったが、絵本の王道はそれとは違い「行って、帰ってくる」ことが主題である。冒険を経た後、始まる前の状態に戻るのが絵本のセオリーだ。どろんこハリーなどを参考にするといい。
その意味では、死んで地獄に行った者が戻ってきて地獄を語ると言う話は、いかにも絵本的である。
それを踏まえると、蜘蛛の糸カンダタが地獄から脱出しようとしてまたしても地獄に戻ると言うストーリーは、セオリーをブラックな形で守っていると言えるだろう。
まあ、文学議論はともかく、蜘蛛の糸も地獄によって教訓を語る上では検討に値するだろう。

蛇足

この地獄の概念は日本仏教が独自に発展させてきたものであり、漢語で書かれ一部知識人しか理解できなかった仏教教義を民衆に浸透させるための方便である。「嘘をついたら舌を抜かれる」「悪いことをしたら地獄に落ちる」と言ったいわば脅し文句で社会的規範を守らせようとしてきた訳だ。
判断力の未熟な子どもにはこのようにして教えておき、将来的に判断力が発達すれば、地獄などないことに気付くが、同時に社会規範の重要性をも理解しているはずで、教育方法として妥当だったと納得することを期待している訳だ。それが通用しない馬鹿が多いのは残念なことだが。
世のお母様方には、うまく地獄やなまはげを使っていただきたいところ。

さらに蛇足

日本仏教の地獄に関する絵本しかないんだろうか。西洋キリスト教の地獄の絵本は見つからなかった。とは言え、キリスト教の地獄がどんなものかはダンテの神曲を読めばこと足りる気がしないでもないが、子どもが読むにはヘビーすぎる。
ちなみに、ある宗教が社会規範として何を禁じ、また罪に軽重をつけるとしたらどのような順序かを知りたければ、その宗教の説明する地獄を調べればすぐにわかる。

さらにさらに蛇足

amazonで地獄を検索すると、アダルト商品の方が多いんじゃないかと思える。
地獄が魅力的な存在であることの証明だろうか。