頭の体操

問題文

アリスとベティとキャロルがいる。三人は前を向いて一列に並んでいる。
そこに背後からドロシーが帽子を持ってやってくる。
帽子は白が三つ、赤が二つの合計5個で、ドロシーは並んでいる三人に自分のかぶっている帽子の色がわからないように帽子をかぶせていった。そして、帽子の色と種類について三人に説明した。
三人は会話を禁じられた上で、ドロシーにこう問い掛けられた。
「自分のかぶっている帽子の色がわかったら、手を挙げて私にだけこっそり発言してください」
誰も何もしゃべらない緊張した沈黙の後、やがて先頭のアリスが手を挙げて正解を言った。

設問

  1. アリスのかぶっている帽子の色は?
  2. アリスはどのようにしてその結論に達したか?

ぐだぐだ

私がこのバリエーションのクイズに最初に触れたのは、袋閉じはあったにせよ健全なパソコン雑誌だった頃のコンプティークでのことだった。聖エルザクルセイダーズからの出題だ。
こちらのバージョンでは、読者に対するヒントとして次のようなセンテンスが追加されている。

ドロシーは最初に一番後ろにいるキャロルに尋ねた。キャロルには、アリスとベティの帽子が見える。
「あなたの帽子の色はわかりますか?」
キャロルはわからないと答えた。
次にドロシーはベティに尋ねた。ベティはアリスのかぶっている帽子の色しかわからない。
しかしベティもわからないと答えた。
最後にドロシーはアリスに尋ねた。アリスは誰の帽子の色もわからない。
けれどアリスはわかると答えて、正解を言った。

ここまでヒントを出されればどんなバカでも解けるだろうと思ったのが過去の学生だった自分。なにせ「あの」コンプティークに載ってる問題だぜ? 嫌オタク流によれば「偏差値30に売り込む」ことを目的に編集された雑誌だ。なにしろ俺にだって解けたんだから、全くもって簡単なはずだ。
しかし、後に公務員になってから若手同士でクイズを出し合った時、これのディテール違いが出て出題者と俺以外にわかる奴がいなかったことにショックを受けた。後半のヒントセンテンスがなかったにしろ、だ。なんだって? 公務員って奴は、こんなにアレなのか? その当時の俺の内心のショックはどう説明したものか悩むところだ。
しかし最近になって、なぜ、それを考えつかなかったのか?―最高の結果を生む聡明な思考法を読んだ時、理由がわかったような気がした。この本の中に、同種の問題が出題されていたのだ。それは他人を意識することの章の締めくくりとしての問題だった。
このクイズが解けるかどうかは、自分の中の論理だけではなくて、他人がどう動くのか、他人が何を考えているのかの洞察なくして解けないとこの本は言っているのだ。(もしこれが本当なら、公務員って連中は空気が読めない奴の集……ゲフンゲフン)
たとえばアンケートをとる。回答者が、設問にそって何かをする理由(あるいはしない理由)を答えるだろうが、それが真の動機であると言う保証はない。あるATMを設置した銀行は、設置ついでに窓口に高額出納に対する優遇措置を取った。すると、銀行の利用者自体が減少し、預金総額も同様に減少した。慌てた銀行はアンケートを取ったが、上がってくる理由は「ATMの方が時間がかかる」とか「冷たい感じがする」などの的外れなものばかり。やがて頭の切れるマネージャーが真実を見抜く。窓口での高額出納優遇のせいで、利用者は「貧乏人はATM使ってろ!」と言われた気分になっていたのだ。
この「真の動機」を見破るのは大切なことだ。人間は様々な前振りや法的な迂回路を取って最終的な目的を達しようとする。そうするのは、迂回路を取ることで誰かに邪魔をさせにくくしたいからだ。しかし真の動機=目的がわかっていれば、後は目的の直前で待ち伏せしておけば勝手に罠に落ちてくれると言う寸法だ。
正直、他人のそれが読めないから苦労しているのだが、有益な助言ではある。
あー、その、つまり、だ。
向き合っている時に話題が尽きてそわそわ目をそらしている女性が一体何を考えているのかわからんなーってことだ。