搾取せよ

エクスプロイテーション」と言う言葉がある。この場合は、映画に代表されるコンテンツで特定の層に対し過剰なまでの描写を行い、それによって小銭を巻き上げることを言うそうだ。
たとえば、キーワードで説明されている「ブラックプロイテーション」などは、こんな映画だ。

主人公は長身の黒人。巨大なアフロヘアーとサングラス、フリンジのついたジャケットに股の切れ上がりまくったパンタロンジーンズ。全身にゴールドとジェムをまとったナイスガイだ。
オープンカーを乗り回し、常に複数のボインちゃんを侍らせ、その中には白人の女さえいる。
この主人公が、あくどいことをして成り上がった悪人面の金持ち白人や悪徳警察官とドンパチやらかしてぶっとばす。

こういう映画を見て喜べるだろうか。だが実際にブラックプロイテーションは売れたのだ(だからこそ今こういう言葉が残っている訳だが)。かつて映画の黄金時代、週末の映画館には低所得層の黒人たちが押し寄せた。それが絵空事だと知りつつ、それでも一時の憂さを晴らすために。
故・ねこぢるの著作の中に、インド旅行記があり、その中でインドの映画館の描写があった。「ムトゥ・踊るマハラジャ」系の映画を、ぼうっと麻薬か何かのようにじっと見ているインド人を描写していた。恐らくこれもまた、エクスプロイテーションの一種なのだろう。
ここではエクスプロイテーションの是非は問わない。そうではなく、エクスプロイテーションとは、対象とする層の願望を映す鏡であることを強調したい。
現実問題として、エクスプロイテーション要素のない映画や小説などは存在しないのではないか。最近台頭してきた携帯小説など、エクスプロイテーションの最たるものではないだろうか。(もっとも、単純なハッピーエンドにならないあたりが読者層の屈折した心理を反映しているようだが……その分析はまた別に)
さて、前振りが長くなった。
今回読んだのは、これだ。

小説 ニッポン消滅〈上〉

小説 ニッポン消滅〈上〉

原作は1990年代の韓国で発表されたGAIAなる小説。超電波ゆんゆんウリナラライトノベル、そうとしか形容ができない内容だった。何故小学館がこれを翻訳しようと思ったのかさっぱりわからない。

2004年、日本はごく近い将来日本列島が沈没することを科学的調査によって突き止めた。
そこで極秘裏にプロジェクトを発動させ、やがてオーストラリア、韓国などに宣戦布告なしで戦争を仕掛けた。
一方、アメリカではガイア理論に基づき地球の意思を確認するプロジェクトが発足していた。

全編を通じてツッコミどころしかなかった。第一章の冒頭を読んだだけでもう読んだのを後悔し始めた。

(日本の首相から第一野党の党首に向けての手紙)
尊敬する○○党首へ――

作者が日本の政治状況も文化もメンタリティーも理解してないことがこの一行でわかった。

  • 日本の野党の党首が、「日本沈没」の秘密を打ち明けるに足る人物なのか?
  • 日本人は普通「尊敬する〜」で始まる手紙は書かない。
  • 挙国一致体制を作りたいのはわかるが、日本でそれはまず無理だってことがわかってない。

他にも、日本が第二次大戦中のナチスドイツよりもたくさんの秘密兵器を抱えた技術大国であり、アメリカを牽制しながらオーストラリアと韓国の二正面作戦を同時に展開できるほどの軍事大国だと言う設定も荒唐無稽だし、日本に通常ミサイルの如く核をボンガボンガぶっぱなさせるなど日本人の核アレルギーどころか核の後始末の大変さに対して全くの無知だったり、かと思えばサッカーの試合で日本が惨敗(韓国が快勝とは言わない)するし、主人公っぽい超能力を持った韓国人に日本人のパトロンがついてそのパトロンの娘がいつのまにか超能力韓国人に惚れてたりする。そもそも、沈没する場所が日本だと言う理由もはっきりしない(まあ、これは後で説明されるのかも知れんが)。
電波でクラクラしながらなんとか上巻を読みとおしたのだが、ここで最初の「エクスプロイテーション」に戻り、なんとなく得心がいったのだ。そう、これは韓国人向けのエクスプロイテーションなのだ。しかしそうすると、今度はそれ以上に韓国人のねじれた心理が紙面を透けて見えてくる。
単純に言えば、日本が好きで、同時に嫌いなのだ。好きであればこそ、様々なものを真似たりパクるのだ。嫌いであればこそ、あれだけ世界中で日本をこきおろすのだ(もっとも、韓国人は朝鮮民族以外を全て下に見る傾向があるようだが)。そしてその病理のもっとも根の深い点は、それらを韓国人自身が自覚できない点だろう。
日本が好きだから、日本の技術力や軍事力を過大に評価するのだ(過大すぎてファンタジーの域に到達しているが)。
日本が嫌いだから、日本が沈没したり日本が宣戦布告無しに戦争を起したり独島を占領したり核ミサイルを撃ったりするのだ。(それもまたファンタジー以外の何物でもないが)
そしてこのウリナラファンタジーが日本で翻訳を出すほどにヒットしたと言う事実は、このストーリーが韓国人の読みたかったことに一致したと言うことだろう。
ところで、今の私に下巻を読む元気がないんだがどうしたもんだろう。
P.S.日本人の移住の話は色々出てきてるんだが、日本と韓国の両方が出ておきながら、在日については全く触れられていなかった。つまり、韓国人にとって在日韓国人在日朝鮮人)は存在すら認識されないどうでもいい棄民と言うことなのだろう。