A君(17)の戦争〈1〉まもるべきもの (富士見ファンタジア文庫)

富士見ファンタジアに多い「異世界物」の一つですなあ。ほれ、例のとりあえずあまり目立たない主人公がふとしたことから異世界に飛ばされてヒーローになるってえ少年物の王道ですわ。
で、これがただのライト・ファンタジーで終わっていない所以は、元々歴史物出身の作者にある訳で。人間の国家と様々な種類の魔族を集めた国家の戦争に、きちんとした動機を導入していることですわな。
末端の兵士にとっては、「魔族は人間じゃないから(何をやってもいい)」みたいな理由で戦争に参加するのですが、それを扇動した国家の首脳は、「この国がいまいち大国になれないのは、海がないからだ(海があれば貿易で国力をつけられる)。よって魔族の領土を占領して海と労働力をを手に入れよう」と言う明確な戦略目的があるんですね。
実際、歴史を振り返ってみると、どんな戦争の始まりにも利益と言う理由があります。無論、戦争には大義名分も必要ですが、大義名分なんてものは必要とあらばでっち上げられるものですので、やはり一番大事なのは利益なのでしょう。
※ちなみに宗教が理由のテロには、この法則はあてはまりません。あてはまらない場合が多いです。と言うか、彼らの求める利益が一般の人間には理解できない場合が多いのです。
十字軍は宗教戦争の形を借りた略奪戦争でした。19世紀から20世紀にかけてのヨーロッパ諸国のアジア諸国への侵略は、当然様々な利益を求めてでした。
それを考えると、「世界統一」などと言う理由で戦争おっぱじめる輩は、実は最低のクズ野郎かも知れません。まあ、利益の確保をしないと部下がついてこないので、本当の目的(エゴの充足)とは別にきちんと設定するのですが。秦の始皇帝とかアレクサンダー大王とかジンギスカンとかチムールとかヒトラーとか。あ、最後の一人はちとアレですか?
と、そんなことを考えさせられるなかなかに味わい深い作品でした、とさ。



※2005/04/22 Fri 11:07:57 に再編集されました。
※2004/11/01 Mon 19:20:31に再編集されました。
※2004/10/30 Sat 17:09:39に再編集されました。